Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
廃工場の埃まみれの床にその遺体は倒れていた。倒れているのは、まだ十代と見られる男性だ。汗ばむ季節だというのにサイズの合っていないブカブカの冬用パーカーにデニムパンツを履いており、頭部の辺りに血が広がっている。近くには凶器として使用されたのであろう血のついた鉄パイプが落ちていた。

「まだ若いですね。可哀想に……。おまけにこんなに顔が腫れて……」

蓮が哀れみを込めた目で遺体を見る。遺体は顔や首元が赤く腫れ上がっていた。紫月は顎に手を当てる。

「これは、何らかのアレルギー症状か?」

白っぽい埃に覆われた遺体を見て紫月が呟いたその時、「お前ら、また来てるのか」と呆れたような声がした。優我である。セットした髪を触りながら彼は刺々しく言った。

「ここは捜査一課が担当する事件だ。研修みたいな感じで踏み込まれても困るんだよねぇ」

「……俺だって捜査一課にいた。捜査一課に戻りたくてここにいる」

優我にそう返し、紫月は遺体に触れる。その時、遺体のポケットに何かが入っていることに気付いた。
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