Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜

家族

「お前は小説家がどれだけ忙しいかわかっていないな。こちらには締め切りというものがあるんだぞ」

そう電話では言っていたものの、アノニマスは事件の翌日、現場に駆け付けてくれた。相変わらずその格好はよく目立つロリータコーデである。

モノトーンのバラ柄のワンピースに黒いボンネット、レース付きの日傘を差している。黒いチョーカーを首につけた彼女は無表情で紫月を見上げた。

「突然呼び出して悪かった。これから被害者の家族に事情を聞きに行こうと思っているんだ」

「私がいる必要はあるのか?」

「家族の様子を観察してほしいんだ」

人を観察する力は刑事として紫月はそれなりにあると自負している。しかし、紫月よりもアノニマスの方が観察眼は優れているのだ。おまけに心理学もアノニマスは詳しい。

アノニマスが渋々といった様子で「わかった」と呟いたのを、紫月は内心ホッとしていた。そして少し離れたところにいた蓮に「行くぞ」と声をかけ、被害者太陽の自宅へと向かう。
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