Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
与謝野太陽は遺体が発見される前日に行方不明者の届出が出されていた。そして本人が身元の確認が取れるものを持っていたため、身元確認はスムーズに行われた。しかし、遺体は解剖のためにまだ家族に引き渡されていない。

(しかし、昨日のあれは意外だったな)

紫月は昨日のことを思い出す。学生証を見つけたことを修二に紫月は報告し、すぐに家族に連絡を行った。その時、太陽の母親である成美(なるみ)はこう言ったのだ。

『私と夫の匠(たくみ)は仕事が忙しいので、遺体の確認は娘に行かせます』

淡々とした口調でそれだけ言うと成美は電話を切ってしまった。そして本当に太陽の姉である雨(あめ)が警察署まで来たのだ。そのことに紫月は内心驚いていた。

今まで、どんな仕事人間でも自分の息子や娘が事件に巻き込まれたと知らされると、仕事を放り出して駆け付けた人しか見たことがなかった。成美と匠にとって仕事は命を落とした子どもよりも大切なものなのだろうか。
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