Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「雨さんは無職で学生でもないんですね。高校はどちらに通っていたんでしょうか?」

「雨さんは高校は定時制のところに通っていたみたいです。太陽さんの学校の送り迎えを担当していたみたいですね」

蓮の言葉にアノニマスは「なるほど」と呟いたきり、口を閉ざした。紫月はその整った横顔を見つめながら、太陽のことを考えた。

太陽は重度の自閉スペクトラム障を生まれつき持っている。自閉スペクトラム障とは、人とのコミュニケーションが苦手・物事に強いこだわりがあるといった特徴を持つ発達障害の一種である。以前は特性の目立ち方や言葉の遅れの有無などによって自閉症やアスペルガー症候群などに分けられていたものの、一つにまとめて呼ばれるようになった。

自閉症スペクトラム障を持った太陽は小学生の頃から特別学級で勉強し、高校も特別支援学校に通っていた。登下校を太陽一人では不安だと両親が雨に頼み、雨は太陽と一緒に学校まで行っていたそうだ。

(学校……)

紫月の頭の中に一人の女性の笑顔が浮かぶ。古くなり始めた記憶のワンシーンだ。綾音が笑顔で紫月と幸成に声をかけてくる。
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