Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
『幸成!紫月!教員免許取れたよ〜!!』

教師は綾音が中学生の頃からの夢だった。花が咲いたような笑顔に紫月の胸は温かくなり、幸せになったことを覚えている。

『おめでとう、綾音。おいしいものでも食べに行こう』

そう声をかけた幸成に対し、綾音はすぐに『すき焼き食べたい!』と答える。そして紫月と幸成の二人の腕を掴んで走り出したのだ。

「おい、太宰!」」

アノニマスに腕を揺さぶられ、紫月は我に帰る。気が付けば太陽の家の前だった。表札には「与謝野」と書かれている。長い間ぼんやりしていたようだ。

「太宰さん、大丈夫ですか?」

蓮が紫月の顔を覗き込み、アノニマスは呆れた様子でこちらを見ている。紫月は慌てて咳払いをし、「大丈夫だ」と言いチャイムを鳴らした。恥ずかしさで顔に熱が集まる。

(アノニマスに見られてしまった……)

何故こんなにも恥ずかしいと思ってしまうのか、その答えを紫月はもう気付いていた。しかし、アノニマスを見るたびにこの気持ちは決して開けてはならないパンドラの箱に等しいのだと思う。
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