Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
紫月はアノニマスの方を見る。彼女はその顔に穏やかな笑みを作り、翡翠を演じていた。紫月の胸が切なく高鳴った瞬間、「はい」と暗く沈んだ声がインターホンから聞こえてくる。

「警視庁の太宰です。太陽くんの件でお話を伺いに来ました」

紫月がそう返すと、玄関のドアがすぐに開いた。そこにはきっちりとメイクをしてブランド物の服を着た成美が立っていた。その瞳は悲しげに揺れている。今にも泣き出すのを我慢しているようだ。

「どうぞ、お入りください」

「お邪魔します」

紫月たちはリビングへと通された。綺麗に片付けられたリビングには、まだ幼い太陽と雨が工場で遊んでいる写真が飾られており、ブランド物の服を着た匠とヨレヨレのジャージを着た雨がいた。匠が「どうぞ座ってください」とソファを勧める。

「ありがとうございます」

紫月たちがお礼を言って座ると、雨がジッとアノニマスを見ていることに気付く。それまでは感情のない顔と瞳だったが、今の彼女には明らかに感情があった。

「そ、そちらの方も刑事さんなんですか?」
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