Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
その質問をした刹那、それまで泣いていた成美と匠の表情が強張った。聞かれたくないことを聞かれたと言いたげな表情で、二人の視線はあちこち忙しなく動いている。動揺しているサインだ。

「与謝野さん?」

紫月と蓮が声をかけた時だった。雨が「小麦です」と静かに呟くように言った。

「太陽は小さい頃から小麦アレルギーがあります」

雨がそう淡々と答えると、両親は「そうそう!小麦!」とわざとらしく大きな声で言う。その瞬間、紫月は違和感を覚えてまた質問をした。

「太陽くんの好きなテレビ番組や食べ物はありましたか?」

その質問に、成美も匠も答えることができない。紫月はあることを確信した。



与謝野家を出た後、時刻は十二時を過ぎていた。蓮は警視庁に用事があると言ってタクシーに乗り、紫月とアノニマスは別のタクシーに乗り、住宅街から少し離れたところにある蕎麦屋に入った。テーブル席に座り、注文を済ませた後、アノニマスが口を開く。

「可愛い息子だと言っておきながら、あの二人、ろくに太陽の面倒を見ていなかったようだな。アレルギーすら知らないとは」
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