Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
そう言ったアノニマスの顔はどこか呆れた様子だった。アノニマスは翡翠のこともあり、子育てを放棄する親をよく思っていないはずだ。紫月は水を飲み、口を開く。

「育児放棄は立派な虐待だ。あの場で怒鳴り散らすかと思ったぞ」

「怒りを通り越して呆れたんだ。それに他人の家に口出しする権利はあたしにはない」

アノニマスはそう言って窓の外を見る。窓の外から見える小さな庭には、朝顔や向日葵の花が咲いていた。その花をアノニマスはぼんやりと見つめる。

服装やメイク、顔立ちは年齢よりも幼く見えるはずなのに、この瞬間は紫月より大人びて見える。紫月の胸が締め付けられる感覚を覚えた。

「与謝野夫妻が雨さんに太陽くんの世話を押し付けていたこと以外、何か気になることとかはあったか?」

紫月が訊ねると、アノニマスはこちらを見た。カラーコンタクトの入った瞳が紫月を捉える。

「あの写真は気になったな」

「写真?」

「リビングに飾られていた写真だ」
< 217 / 306 >

この作品をシェア

pagetop