Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
蕎麦を半分以上食べたところで、アノニマスが「これからどうするんだ?」と訊ねる。紫月は口に入った豚肉を飲み込み、言った。

「遺体の第一発見者に話を聞きに行こうかと考えている」

太陽の遺体を発見したのは、堀内政典(ほりうちまさのり)という中学校の教師だった。彼の勤務する中学校は廃工場から二キロほど離れたところにある。何故廃工場に立ち寄ったのかという理由について、彼は事情を聞いた修二にこう話していた。

『最近、廃工場周りを生徒が彷徨いているという電話が職員室にかかってきたんです。それで、一応見回りをしておこうと思って出勤前に立ち寄ったら人が死んでいて……』

政典と太陽に接点はなく、彼の話におかしな点は今のところ見られない。しかし一度話を聞いておこうと思ったのだ。

「そうか。悪いがあたしは家に帰るぞ。執筆をしなくちゃならん」

「ああ、付き合ってもらってありがとう」

「お礼なら、あたしが書いている途中の小説を読んでくれないか?山に囲まれた学校を舞台にしたミステリーだ」
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