Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜

教師と生徒

「私はあの日、あの廃工場で粉塵爆発の実験をしていました。やっていることが不法侵入だとわかっていましたが、粉塵爆発の実験を家や学校ではできません。なのであの廃工場を選びました。実験の途中で太陽くんが現れ、苦しみ始めました。その時に救急車を呼べばよかったのかもしれません。でも、そんなことをすれば私が不法侵入したことも話さなくてはならない。だから、殺しました」

取り調べ室にて、政典はまるで劇の台詞でも読んでいるかのように淡々としていた。その横顔はどこかやつれたように見え、瞳に覇気は感じられない。

「どうして粉塵実験なんてしようと思ったんですか?そんな実験、中学校じゃしませんよね」

取り調べを担当している智也が訊ねる。政典はどこか疲れ切った様子で答えた。

「単なる興味です。動画で粉塵爆発を見て、やってみたいと思ったんです。だから廃工場で小麦粉を使って実験していました」

納得がいかない、そう紫月は取り調べの様子を見て思った。教師という立場の人間が簡単に殺人に手を染めるとは考えられない。紫月は同じく取り調べを見ていた修二に言う。
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