Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
(アノニマスのこの顔を見たら生徒は怖がるな)

翡翠を演じている時には決して見せることのない冷酷さを感じさせる表情をアノニマスは平気でする。しかし、紫月はその表情を見ると安心してしまう自分がいた。アノニマスの秘密を知る数少ない人物のためである。

「とりあえず、科学部が活動している理科室に行くか」

「ああ。授業で使われていなければいいがな」

紫月の提案にアノニマスは頷き、理科室に向かって歩く。理科室があるのは二階の突き当たりだ。二階に着き、理科室の方を見ると電気はついていなかった。幸いにも授業で使われていないようだ。

「よかったな。思う存分観察できるぞ」

アノニマスは紫月に笑いかけ、理科室へと足早に向かう。その後ろ姿を見つめながら、紫月は胸の高鳴りを感じた。

理科室に入るとどこかツンとした匂いが鼻腔に入り込んだ。紫月の目の前には、理科室特有の背もたれのない椅子と黒色の机が並んでいる。それにどこか懐かしさを覚えた。

(科学の実験では、よく幸成と綾音とチームになったな)
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