Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜

（堀内政典の自宅を探してみるか）

捜査一課はすでに政典の自宅を家宅捜索したものの、紫月は一度も容疑者の自宅を見ていない。政典の自宅は中学校から歩いて十五分ほどのところにある。

「アノニマス、堀内政典の自宅に向かうぞ」

「はいはい」

アノニマスは呆れた様子でため息を吐き、歩き出す。二人の間に会話はない。しかしこの沈黙が紫月は心地よかった。蝉の声が遠くから聞こえ、紫月の額に汗が浮かぶ。

しばらく歩くと目の前に小さなクリーニング店が見えてきた。その店のドアが開き、白いブラウスとロングスカートを履いた女性が紙袋を片手に出てくる。四十代と思われるその女性の顔立ちは整っていた。

「太宰」

アノニマスが紫月の腕をつつく。紫月が顔を下に向けると、彼女は鋭い目をしながら目の前を歩く女性を指差す。

「あの女性の持っている紙袋の中、あの中学校の制服だぞ」

「何？」

紫月は慌てて女性に駆け寄る。全く気が付かなかった。一体誰の制服なのか聞き出したいと思い、声をかける。

「すみません。少しよろしいですか？」