Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「な、何ですか？」

女性はどこか警戒したような目で紫月を見上げる。紫月は警察手帳を取り出して見せた。途端に目の前の彼女の顔は強張っていく。

「今日は何をクリーニングに出されたんですか？」

「こ、子どもの制服です。汚してしまったみたいで。それが何か？」

女性の目がクリーニングされたばかりの紙袋に向けられる。紫月は「いえ、特に問題はありません」と笑みを浮かべた。

「ただ、最近中学生を狙った変質者がいるので心配になりまして。お子さんはあの中学校に通われているんですね」

「ええ。三年生です」

「三年生ですか。そろそろ部活は引退する時期ですね。何部に入られているんですか？」

「科学部ですけど」

女性のその言葉に紫月の胸は弾んだ。お礼を言って女性から離れる。様子を見守っていたアノニマスに報告した。

「クリーニング店で訊けば、部員の誰の母親なのかわかるな」

「ああ。今すぐ訊こう」

二人は小さなクリーニング店に足を踏み入れた。
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