Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜



昼時のファミレスはそこそこ混み合っていた。窓際のテーブル席にて、紫月とアノニマスは並んで座っていた。目の前には少し不機嫌そうな真夜がいる。

「太宰さん!いきなり何回も電話かけて呼び出さないでよ。もうちょっとでクレーンゲーム取れたところなのに……」

真夜はゲームセンターで遊んでいたところだったようだ。アノニマスが翡翠の笑みを浮かべて「ごめんなさい」と謝り、紫月がメニュー表を手渡す。

「好きなものを頼め。俺の奢りだ」

「一番高いの選んでやる!」

メニュー表を乱暴に奪い、真夜は料理を選び始める。それを見ている紫月の腕がつつかれた。隣を見ると、アノニマスが笑みを浮かべながら口を開く。

「太宰刑事、私の食事も奢っていただけるんですか?」

敬語と笑みに紫月の体にゾワリと鳥肌が立つ。彼は顔を引き攣らせながら、何とか「も、もちろんですよ」と答えることができた。その答えを聞いてアノニマスの笑みは演じている優しいものからずる賢そうなものに変わる。
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