Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
心配から紫月が声をかけると、彼女は『大丈夫です』とだけ言い、電話はプツリと切れてしまった。

(……そろそろ仕事に行く支度をしないとな)

ベランダから室内へ戻り、スーツに着替える。食欲がないため朝ご飯は食べずに家を出た。脳裏に蓮が「きちんと食べなきゃダメですよ!」と怒る姿が浮かんだものの、紫月は警視庁へと向かう。

(何を調べればいいんだか……)

政典の件に関しては、怪しいものは特に見つかっていない。真夜が調べてくれた江戸川母子にも特に怪しい点は見られなかった。疑問はただ一つ。何故夏休みが始まっていないというのに制服をクリーニングに出したかというだけである。

「まあ、これを言ったところで状況は変わらんだろうな」

捜査一課は政典を起訴するための準備を進めている。役立たずの烙印を押された紫月がどれだけ違和感を訴えたところで、何か物的証拠が見つからない限り政典は太陽殺害の犯人のままだろう。しかし、次は何をすべきかがわからない。
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