Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「太宰さん、立てそうですか?」

「あ、ああ……」

ゆっくりと紫月は立ち上がる。頭痛はもうしなくなっていた。しかしあの事件の資料を見る恐怖は心の中に残っており、紫月は俯いた。

「あの資料ですよね。僕がデスクの引き出しに入れておきます」

蓮は察したのだろう。その言葉に紫月は安堵が込み上げ、ようやく顔を上げることができた。

「夏目、すまない」

「全然大丈夫です!あんなことがあったんですから、そんな反応になってしまうのも当然ですよ」

蓮は無邪気な笑みを見せる。紫月が口を開きかけたその時だった。警視庁内に放送が鳴り響く。

『事件発生!事件発生!住所は目黒区自由が丘×××ー××。捜査員は直ちに現場に向かってください』

紫月と蓮は顔を見合わせ、部屋を出て行こうとする。するとそれまで新聞を静かに読んでいた紀人が顔を上げた。

「太宰、夏目、どこに行く気だ?」

「事件現場です」

紫月が答えると紀人は顔を顰める。紀人はため息を吐いた後、新聞を置いて言った。
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