Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「俺、怖くなって……。不法侵入したのがバレたらまずいと思って、気が付いたら殴り殺してた。慌てて家に帰ったら、仕事のはずの母さんがいて……」

返り血塗れの息子を見て動揺しない母親はいないだろう。問いただされ、学は全てを話してしまった。ちょうどその時、夕飯のお裾分けを持って政典が家にやって来た。

「堀内先生、俺の家がシングルマザーだからか、お裾分けくれたり、勉強教えてくれたり面倒みてくれてたんだ。先生に母さんが俺がしたことを話したら、「私がしたことにしましょう」って先生が言って……」

こうして政典が罪を被ることになったのだ。政典は目の前の生徒の未来を守りたかったのかもしれない。しかし、この世界は小説のように都合のいいことは何一つ存在しない。

「君のしたことは立派な犯罪だ。そして、それを隠そうとした先生やお母さんも罪に問われることになるんだよ」

蓮の厳しい口調で放たれた言葉に、学は「ごめんなさい」と何度も口にする。アノニマスはそれを冷めた目で見ていた。
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