Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「太陽のお遊戯会で着る衣装を作ったのも私!太陽のアレルギー対策の食事を使ってたのも私!スーパーで太陽が知らない女の子の髪に触ったり、保育園で友達に噛み付いたりした時、私がいつも怒られて相手の人に謝ってた……。私、学校以外はずっと太陽の面倒しか見てこなかったよ」

雨の瞳から涙が零れ落ちる。成美と匠は気まずそうな顔をした。二人は太陽が体調を崩した際にも家に帰らず、雨は祖父母を頼ったという。

「本当は、放課後に友達の家で遊びたかった。高校だって定時制じゃなくてみんなと同じ全日制に行きたかった。休日に気になる人とデートしたり、部活したり、大学にだって行きたかった。そこのお姉さんみたいな可愛い服だって着てみたかった」

雨の細い体は崩れ落ち、泣き声が部屋に響く。ずっと心の奥底に閉じ込めていた感情なのだろう。紫月の中に怒りが生まれる。子どもに子どもの面倒を押し付けるなど、虐待も同然だ。

「与謝野ご夫妻、あなたたちは仕事をしていたんではありません。仕事に逃げていたんです。お金を稼いでいると思い込みたかったんでしょう。お金を稼いでいれば手のかかる自閉症スペクトラムの子どもの面倒を見なくても許される。そう思っていたんじゃありませんか?」
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