Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
紫月がそう言い放つと、匠が「そんなこと!」と反論しようとする。しかし言葉は出てこないようで、彼の目は大きく揺れていた。

雨は大きくしゃくり上げ、泣き声はさらに激しくなる。その時だった。アノニマスは彼女を強く抱き締めた。まるで幼い子どもをあやすように、アノニマスは雨の頭を撫でる。

「あなたはずっと頑張ってきた。これは誰にもできることじゃない。あたしはあなたを尊敬する。……だから、これからは自分の人生を生きろ」

アノニマスは雨の涙を拭った。そして優しく笑う。それは翡翠を演じている時の作ったものではなく、自然な笑みだった。紫月の胸が高鳴る。

「さっき、あなたがしたいと言っていたことは全て過去形だった。でもあなたの人生は終わっていない。これからだ。やりたかったことを全力でしろ。それを太陽くんもきっと望んでいるはずだ」

アノニマスはバッグの中からクローバーを取り出す。四葉のクローバーだ。それを雨の手に握らせる。
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