Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「俺たちの立場をわかっているのか?俺たちは警察組織のお荷物。捜査をする権利はないんだ」

紀人のその声には感情がなかった。淡々としたその言葉は紫月の心を抉っていく。しかし、紫月は彼の言葉に首を縦に振ることはなかった。

「権利がなかったとしても俺は警察官です。黙って同期だけに捜査を任せる気はありません!」

そう言い、紫月と蓮は事件現場へと向かう。背中に四人の視線が突き刺さったものの、紫月の胸の中は少し軽くなったような気がした。



事件現場となった目黒区自由が丘は、東京の高級住宅街の一つである。週末は観光スポットとして賑やかだが、目黒通り方面に向かって坂を上がっていくと、静かでゆったりとした住宅街が並んでいる。戸建て住宅だけでなく、マンションも少ないながらも存在する。

「うわ、すごいですね……」

事件が起きたマンションを前にした時、蓮は口を大きく開けて目の前に聳え立つ建物を見上げていた。ずっと眺めているので首を痛めてしまいそうである。紫月もマンションをチラリと見上げた。
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