Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
女のカクテルグラスは空になっていた。バーテンダーが「はい」と頷く。女はミモザを注文した。シャンパンを注いだフルート型のシャンパングラスに、オレンジジュースを加え、ビルドしたものである。ミモザの花に色が似ているため、ミモザという名前がつけられているカクテルだ。

「かしこまりました。少々お待ちください」

バーテンダーはカウンターの奥に向かい、慣れた手つきで二人のカクテルを用意する。そして出来上がったカクテルがテーブルの上に置かれ、二人はそれぞれグラスを手にした。

「では、初めての夜の成功にーーー乾杯」

女の言葉に男はグラスを近付ける。二人のグラスが軽く音を立ててぶつかった。女の顔には笑みがある。男も笑っていた。













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