Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
不安が胸の中に募り、紫月はアノニマスの方を見た。そして息を呑む。目の前にいるのはアノニマスではなかった。

「紫月」

赤みがかった茶髪をポニーテールに結んだ女性が微笑みながら紫月の名前を呼ぶ。アノニマスの派手なロリータとは真逆のシンプルなデザインの純白のワンピースを着たその女性を見て、紫月の心臓が大きく音を立てる。唇がようやく動き、声を発することができた。

「綾音」

ニコリと綾音は笑う。優しいその笑みが紫月は好きだった。彼女の笑顔は、まるで森の中の木漏れ日を思わせる。美しくも温かい。

「紫月」

綾音は再び紫月の名前を呼ぶ。紫月は椅子から立ち上がる。勢いよく立ち上がったため、椅子が後ろに勢いよく倒れた。しかしそれを気にすることなく紫月は綾音の方に向かい、彼女の手を取った。綾音の手は氷のように冷たく、固くなっている。紫月の目の前がぼやけた。

「綾音、お前今までどこに行ってたんだ!俺も幸成も心配してーーー」
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