Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
紫月の言葉が消える。綾音の手を握り締める紫月の手の甲に、ポタリと赤いものが落ちたためである。それは血だった。

「綾音!」

綾音の腹部から赤い血が流れていた。雪のような純白のワンピースは赤に染まっていく。紫月は綾音の名前を何度も呼び、腹部に手を当てて止血しようとする。綾音の顔は苦痛で歪んでいった。

「紫月……とっても苦しい……。私……私……」

綾音の顔がズルリと音を立てる。顔の皮が剥がれ落ち、綾音の頭蓋骨だけがそこにはあった。血まみれの手が紫月に伸びていく。

「とっても痛いの……」

綾音のものではない低く機械的な声が響いた。



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

紫月の口から大きな悲鳴が出た。同時に勢いよく体を起こす。そこはタイ料理屋ではなく、自分の部屋だった。紫月は荒くなった息を整えながら、額に浮かんだ汗を拭う。

「夢か……」

時刻を確認すると午前一時を回ったところだった。夜明けまではまだ遠い。紫月は立ち上がり、ベランダへと向かった。
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