Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
窓を開けると生ぬるい風が紫月の体を包み込む。それを気にすることなく紫月は取り出したタバコに火をつけた。苦い煙を体内に取り込む。すっかり慣れた味だ。

「……嫌な夢だったな」

昨日の夜、タイ料理屋でアノニマスから聞いた推測に衝撃を感じ、夢にまで見てしまった。紫月はため息を吐く。脳裏に血まみれの綾音が浮かび、寒気が体に走った。

監察医の幸成の恋人である綾音と出会ったのは、中学校の入学式だった。初めて制服に袖を通し、新しい生活の始まりに紫月は胸を弾ませていた。しかしーーー。

(イテテ……。急に頭が!)

入学式の途中から紫月の頭は激しく痛み始めた。紫月は偏頭痛持ちというわけではなく、今日は晴天のため天候の変化によるものでもない。原因不明の痛みのせいで、紫月は校長の挨拶や新入生代表の言葉などもほとんど聞くことができなかった。

(頭が割れそうだ……!)

何とか入学式が終わるまでは耐えられたものの、体育館の外に出た瞬間に紫月はその場にしゃがみ込んでしまった。動けなくなった紫月に誰も声をかけない。
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