Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
そんな綾音は、一月に入ってしばらくしてから、突然姿を消した。



いつの間にか朝がやって来ていた。紫月は蒸し暑さで目を覚ます。タオルケット一枚しか体にかけていないというのに、まるで羽毛布団をかけているかのように感じた。

八月に入ってから朝から三十度を超えることが当たり前のようになった。熱中症に関するニュースも毎日のように流れ、紫月の心は今日が始まったばかりだというのに気が重くなる。

刑事という立場である紫月の心を重くさせているのは、真夏の暑さだけではない。ニュースキャスターが真剣な顔でここ最近起こっている事件について読み上げる。

『××区に住む二十二歳の顎木杏菜(あぎとぎあんな)さんの行方は未だ不明のままです」

行方不明となった女性の写真が画面上に映し出される。SNSから引っ張ってきたのであろう写真は、可愛らしいアニマルクレープを持って自撮りをしているものだった。

春から今日に至るまで、都内では女性の失踪事件が時々起きている。失踪するのは十代後半から二十代前半の若い女性ばかりだ。
< 258 / 306 >

この作品をシェア

pagetop