Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
女性が亡くなったと聞くと、頭に浮かぶのは世間を騒がせている女性の失踪事件だ。何か関係がある可能性もある。

電話を切ると、テレビのニュースは北海道の水族館でアザラシの赤ちゃんが生まれたというものに変わっていた。先ほどの暗いニュースとの温度差の激しさに目眩を覚えてしまう。

紫月はテレビを消し、部屋を飛び出すように出た。



蓮が住んでいるのは中央区のマンションだ。そのマンションの近くには住宅街があり、マンションから歩いて三分もしないところにある一軒家の前には、紫月が到着した際にはすでに野次馬が集まっていた。

「警察です。通してください!」

警察手帳を掲げながら、紫月は野次馬を掻き分けて進んでいく。家の前には黄色の規制線が張られ、制服を着た警察官が立っている。蓮よりも若く見えた。

「警視庁の太宰です」

紫月が警察手帳を見せると、「夏目巡査長がすでに中にいます」と制服警官は教えてくれた。紫月はお礼を言い、家の中へと入る。ムワリと熱気が肌に触れた。
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