Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「一人暮らし?この広い家にか?」

「ご両親は仕事の都合でフランスに移住しています。そのご両親から「娘と連絡が取れない」と僕の両親に連絡が届き、様子を見に来たらこういう状況でした」

家の鍵はかかっておらず、貴重品なども盗まれていない。紫月は浴槽の中の蘭の遺体に触れる。死後硬直の状態からして亡くなったのは昨夜の十二時から二時。外傷は見当たらない。

「まあ、おおかた風呂の中で心臓発作でも起こしたんだろう。事件性はなさそうだな」

「でも、自宅で亡くなった場合はしっかり調べないといけませんよね。法医学教室に電話しておきます!」

蓮はお風呂場から出て電話をかけ始める。あと十五分もすれば監察医が来てくれるだろう。紫月は浴槽内に海と中の海藻のように広がったダークブラウンの髪の毛を見ていた。














< 262 / 306 >

この作品をシェア

pagetop