Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
凛子は蘭が亡くなったことを知らせると、すぐに駆け付けてくれた。その顔は悲しみというよりは動揺に満ちている。

「あ、あの、蘭が亡くなったというのは本当なんですか?」

落ち着かなく手を動かす彼女に対し、紫月は「残念ですが事実です」と伝える。凛子は一瞬目を見開いた後、「そうですか」と言い静かに泣き始めた。

「蘭はどうして亡くなったんですか?誰かに殺されたんですか?」

「詳しいことは解剖中なので何とも言えませんが、今のところ事件があった可能性は低いです」

蓮の言葉を聞いた後、凛子は流れる涙を指で拭う。そして大きく息を吐いた。

「数日前に私、蘭に会ったんです。病気をしているようには見えなかったし、何かに悩んでいる様子もありませんでした。夏祭りに一緒に行こうって約束もしてて……」

「夏祭り、ですか……」

紫月は呟く。八月の終わり頃にこの辺りでは大規模な祭りが開かれる。出店も並び、大きな神輿が通りを歩き、夏の終わりの一大イベントとなっている。紫月も学生の頃、幸成と綾音と共に何度も訪れたことのある祭りだ。
< 264 / 306 >

この作品をシェア

pagetop