Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
(アノニマスは行ったことがあるだろうか……)

アノニマスは数少ない友人や仕事の打ち合わせ以外は、ほとんど家で過ごしていると言っていたことを紫月は思い出した。こういった祭りやイベントには参加したことはほとんどないだろう。

(もしも行けたら誘ってみるか)

出店の並ぶ通りを二人で歩く姿を想像し、紫月の頰が赤く染まる。アノニマスは祭りではどのような服を着るのだろうか。浴衣だろうか?それとも和風ロリータだろうか?

そんなことを考えている間に、蘭の遺体が運ばれた法医学教室に到着した。紫月、蓮、凛子の三人は迷うことなく法医学教室の中へと入る。

この法医学教室には、幸成を含めて監察医が五人いる。全員優れた観察眼を持った立派な監察医であり、ホワイトボードやデスクが並んだ部屋には全員が揃っていた。

「失礼します。早見蘭さんの身元確認に伺いました」

蓮がそう声をかけると、所長である石崎治(いしざきおさむ)が椅子から立ち上がり、「この度はご愁傷様です」と言って頭を下げた。幸成たち他の監察医たちも同じように頭を下げている。
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