Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
治の言葉に凛子は緊張した面持ちで頷く。治に案内され、凛子と紫月と蓮は解剖室に案内された。メスなど解剖に必要な道具が並んだ解剖室の中はどこかヒヤリと冷たく、部屋の中央にある解剖台の上には蘭の遺体が寝かされていた。

「蘭!!」

凛子は蘭の姿を見た刹那、大声を出して解剖台に駆け寄った。そして震える手で蘭の頰に触れる。その目からは大粒の涙が溢れ、流れていった。

「蘭!!蘭!!」

もう目を開けることも、話すこともできないいとこに向かって凛子は叫び続ける。紫月は隣で苦しげな表情を浮かべる蓮の手を引き、解剖室を出た。

「早見さん、太宰さんと歳が同じくらいでしたよね。あんなに若いのに可哀想だなって」

「そうだな。でも、死は誰にでも突然やって来るんだ。それに抗うことは誰にもできないんだよ」

拳を握り締める蓮に対し、紫月は声をかける。その時視界の端に何かが見えた。紫月が顔を上げるとハオランの姿があった。目が合うと彼は逃げるように去って行く。
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