Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
その派手な女性を目にした瞬間、紫月は足を止めて声をかけていた。

「アノニマス!」

アノニマスは足を止めて振り返る。その目はどこか警戒に満ちていたが、紫月の姿を捉えると警戒が薄れた。

「太宰!何故ここに?」

「それはこっちの台詞だ」

アノニマスがここにいる理由は、出版社の編集長に誘われたためであるという。編集長から新しい本の出版の企画の話をされていたのだそうだ。

「酔っ払ったおっさんの相手に疲れてな。風に当たってくる」

アノニマスは困ったように笑った。紫月はその笑みに心がジワリと温かくなるのを感じながら、「お前も大変そうだな」と言う。その言葉にアノニマスの耳がピクリと動いた。

「お前も?何か大きな事件でもあったのか?」

「……また電話で話す。また協力を頼んでもいいか?」

紫月の言葉にアノニマスはフッと笑った。そして背を向けて歩きながら答える。

「あたしはお前の協力者。協力するのが役目だろう」
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