Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
その言葉は、出口の辿り着かない未解決事件という迷路を彷徨っている紫月にとって、何よりも頼もしい言葉だった。



幸成と夕食を食べて帰った後、紫月はすぐにベランダに出る。蒸し暑い風が体に纏わりつく。

紫月はタバコに火を付けた。すっかり暗くなった辺りにタバコの赤い火が灯る。その明かりがやけに美しく感じた。

タバコを口にくわえながら紫月はスマホを取り出す。そのままアノニマスに電話をかけた。すぐにアノニマスは電話に出る。

『もしもし』

「もしもし。太宰だ」

アノニマスの玲瓏な声に胸が熱くなっていくのを感じながら紫月は口を開く。彼女は言った。

『結局、新しく本を出すことになったから執筆に取り掛かりたい。事件のことを手短に頼む』

「ああ」

紫月は連続女性失踪事件と早見蘭の件を話した。少しの沈黙の後、アノニマスの声が響く。

「その失踪事件はテレビやネットで話題になっているな」

「ああ。この事件の犯人像をプロファイルしてもらいたいんだが、頼めるか?」
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