Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「アノニマス、いつ来たんだ?」

「パフェとコーヒーが届いた辺りからだ」

アノニマスは紫月の正面に座り、コーヒーを注文する。店員が持って来たお冷やを口にした後、彼女は鋭い目を紫月に向けた。

「それで、何が起きたんだ?電話では「来てくれ」としか言われなかったんだが……」

「ああ。それがーーー」

アノニマスに紫月は蘭の遺体が盗まれたことを話す。紫月が話し終わってコーヒーに口をつけると、無言だったアノニマスは顎に手を当て、口を開いた。

「遺体を盗むとは奇妙な事件だな」

「そうだろう。こんな事件、捜査一課にいた頃にも聞いたことがない」

遺体を盗難など日本で事例は果たしてあるのだろうか。アノニマスは口を開く。

「そう言えば中世のヨーロッパでは、貴族の墓荒らしをする輩は珍しくなかったそうだ」

「墓荒らし?何のためにそんなことをするんだ?」

「貴族が亡くなると、遺体には宝飾品が数多く身に付けられる。ヨーロッパは日本のように火葬じゃなくて土葬だ。宝飾品ごと土の中に埋められる」
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