Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「金に困った奴が墓を掘り起こし、遺体が身に付けている宝飾品を盗むということか」

「ああ。さすがに遺体まで盗む奴はいなかっただろうがな」

しかし、今回盗まれたのは宝飾品では遺体そのものである。しかも蘭は浴槽内で亡くなったため、宝飾品はおろか衣服すら身に纏っていない状態だった。

「遺体を盗んで犯人側にメリットがあるのか?」

「情報が少なすぎてプロファイリングができんな。犯人がネクロフィリア(死体愛好家)なのではという仮説しか浮かばないな」

「ネクロフィリア……」

仮に犯人がその特殊な趣味があったと仮定した場合、蘭の遺体が法医学研究所にあると知っている人物が犯人ということになる。法医学研究所と関わりのある人間が盗み出したか、法医学研究所の人間が犯人を手引きしたのか。どちらにせよ、最悪な事件に変わりはない。

「この遺体を盗んだ事件、女性の行方不明事件と関係はあったりすると思うか?」

ふと頭に浮かんだことを紫月は口にする。アノニマスは少しも考えることなく、「情報が少なすぎる。まだ何も言えん」と答えた。
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