Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「ただ、この一連の事件には大きな目的があるのではないかとは思うがな」

アノニマスはそう言った後、コーヒーのカップを持って口元にまで運ぶ。一日に何度も誰もがするその所作が、彼女がすると気品の漂う貴族が目の前にいるかのように美しく紫月の目には映る。胸が高鳴り、紫月は考えるよりも先に誘ってしまった。

「アノニマス、八月の終わりにある夏祭りに行かないか?」

先程までの話と温度差があまりにも違いすぎるこの話題に、当然アノニマスは眉を顰めた。驚きと呆れが人形のように整った顔に浮かんでいる。

「お前はいきなり何を言い出すんだ。まだ事件解決への道は遠いんだぞ。解決してから言え!」

「なら、祭りまでに解決できるように頑張ろう。解決したらその時は一緒に行ってくれ」

「解決できたらな」

紫月の前でアノニマスは少し困ったように笑う。そんな彼女から彼は目を離すことができなかった。



アノニマスと別れた後、紫月は警視庁へと戻った。廊下を歩いて「未解決捜査課」へ向かっていると、「太宰さん!」と声をかけられた。振り返ると蓮と修二がいた。
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