Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「芥川さん!それに夏目。一体二人してどうしたんですか?」

紫月がそう言うと、蓮が「聞きましたよ、太宰さん!」と言いながら近付いてくる。彼の顔は戸惑っている様子だったが、その目には好奇心が宿っていた。

「法医学教室で遺体が盗まれたそうですね!」

「あまりにも特殊な事件だからな。捜査一課にも協力要請が来たんだ」

修二の言葉に紫月は「そうでしたか」と納得する。確かにこの事件は前代未聞だ。捜査一課でまだ手の空いている班が操作チームに加わるのも当然だろう。

「太宰は法医学教室で話を聞いてきたそうだな。その話を聞かせてくれないか?」

「太宰さん、俺にも話を聞かせてくださいね!」

「はい。もちろんです」

三人で空いている会議室にでも行こうかと話し、移動しようとしたその時だった。バタバタと大きな足音が廊下に響く。思わず振り返ると、紀人がこちらに向かって焦ったような表情で走って来ていた。彼の初めて見る表情に紫月は驚く。
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