Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
次に現場で科学捜査班が指紋などの採取を行ったものの、法医学教室にいる人間以外の指紋や毛根は見つかっていない。

「それじゃあ、手がかりはなしってことじゃないですか!」

蓮がそう叫ぶように言うと、紀人が「いや、だからこそ容疑者が絞られた」と顎に手を当てながら言う。彼の真剣な眼差しを紫月は初めて目にした。

「どういうことですか?」

首を傾げる蓮に対し、修二が説明する。

「防犯カメラがほとんど全て破壊されていたと太宰が言っていただろう。初めて侵入した人間が防犯カメラの位置を把握していると思うか?」

「いえ。何度も侵入しないとわかりません」

「そうだろう。そして次に指紋や毛根が研究所の人間のもの以外見つからなかった。外部から侵入されれば、間違いなく何か痕跡は残るはずだ。それがなかった」

「犯人は何度も研究所に来ている。指紋や毛根がなければ不自然な人物……!」

蓮の瞳が大きく見開かれる。ようやく理解したのだろう。容疑者は方医学研究所の人間全員だということを。
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