Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「まあ防犯カメラが役に立ってないんだから、聞き込みをしてどうこうなるものじゃないとは思うんだけどね〜。……嫌だわ、足がもうパンッパンよ」

尚美が足を揉みながら息を吐く。彼女は今日一日中と言っていいほど聞き込みをしていた。

「それにしても、犯人の動悸がさっぱりわからない事件ですね。遺体をどうするつもり何でしょうか。遺体を自宅で保管してるんでしょうか」

碧がデスクに並べられたミステリー小説をぼんやりと見ながら言う。確かに小説ならば犯人の動機というものは絶対に書かなくてはならないところだろう。

「馬鹿野郎。自宅の冷凍庫なんかで遺体を保管できるわけないだろうが。早見さんの遺体をバラバラに解体しなくちゃいけなくなる」

紀人が苛立ったようにタバコを口にくわえ、火をつけようとしてここが禁煙だったことを思い出し、舌打ちをする。彼の言う通り、遺体を自宅に持って帰った可能性は低いだろう。腐臭や解体時の音で近隣住民に気付かれる可能性がある。
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