Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「中原!志賀!そんな口の利き方を被害者の前でするな。それにこの二人だって刑事だ。捜査の権利がなくなったわけじゃない。そんなことより被害者の身元を説明してやれ」

修二に叱られ、渋々といった様子で智也が手帳を取り出して開く。そして被害者の身元などを話し始めた。

被害者の名前は条野慎吾(じょうのしんご)。大阪府大阪市出身。五十一歳。小説家。このマンションの一室に一人で暮らしていた。

「今日の十時頃、被害者の担当編集者が原稿の締切日だったためこの部屋に訪れた。しかしチャイムを何度鳴らしても応答がなく、不審に思った編集者が合鍵を使ってドアを開けたところ遺体を発見したというわけだ」

「ただの編集者が合鍵を持ってるものか?」

紫月が疑問に思った点を口にすると、智也は彼を睨み付けながら説明する。慎吾は八年ほど前に孤独死のニュースを見て、「異変が起きた際にすぐ気付いてもらえるように」と編集者に合鍵を渡した。

「その編集者さんはどちらにいらっしゃるんですか?」
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