Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「ご協力、いただけますね?」

修二の強い言葉に、ハオランはただ頷くだけだった。



ハオランの家宅捜索では、失踪した女性や蘭の遺体があった痕跡はなかった。しかし、彼の押収されたパソコンの中から遺体の売買についてのメッセージのやり取りが残されており、逮捕に至った。

「……僕の生まれた村では、古くから冥婚の儀式が行われていました。僕の村だけじゃなくて、他の村でもその儀式はやっていました」

取り調べ室の椅子に座らされたハオランは、ポツリポツリと供述を始めた。マジックミラー越しにそれを聞いていた紫月は、真夜とアノニマスの気になったことが当たったことに拳を握り締めていた。

冥婚とは、死者の結婚のことである。中国をはじめ東アジアでは、未婚・もしくは成年を迎える前に死んでしまった人間は死の世界へ行くことができないと言われていた。そのため、未婚・もしくは成年を迎える前に亡くなった男性の棺には、もう一人同じ時期に亡くなった未婚の女性の遺体を入れる。これで擬似的ではあるが結婚をしたと見なされるのだ。
< 291 / 306 >

この作品をシェア

pagetop