Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
中国ではこの儀式が古代から行われ、現代でも一部の地域で信仰され続けている。しかし近年では遺体不足が問題となっている。

中国では人口増加を抑えるために長く「ひとりっ子政策」を行ってきた。家を継ぐ男の子は大切に育てられたものの、女の子は生まれると煙たがられ、戸籍のない子どもとして放置されるか、人身売買のブローカーによって売り飛ばされていたそうだ。そのせいで中国の男女比率は歪な形となり、未婚のまま男性が亡くなっても冥婚の相手が用意できないという事態に陥った。

そのため、冥婚相手を確保するために中国では時折り女性の殺害や遺体・遺骨の強奪があるのだという。

「冥婚相手を用意すると、アルバイトより稼げる時があるんですよ。だから日本でも遺体を盗もうと思ったんです。でもいい遺体が見つからなくて……」

遺体を用意する、ただそれだけの理由で多くの女性が殺害された。殺害された女性はすぐにブローカーに引き渡され、海を渡って冥婚の儀式に使われる。紫月は怒りが込み上げ、今にも取り調べ室の中に入って彼を殴り付けてしまいそうになった。それを唇を噛み締めて堪える。

「最初に殺害したのは誰なんだ?どんな女性だった?」
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