Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜

智也が質問すると、ハオランはしばらく無言だった。誰を最初に手にかけたのか思い出しているようだ。ハオランはゆっくりと口を開く。

「確か、今年の一月の夜でした。夜にエコバッグを持って歩いている女性がいたんです。殺害した後に、女性の持っていたバッグの中に入っていた免許証を見ました。名前は織田綾音さん」

ハオランが発した名前に紫月の頭が殴られたような感覚を覚える。指先が冷たくなっていく。体が震える。嘘であってほしいと心が叫ぶ。

「だ、太宰さん……」

隣で取り調べの様子を見ていた蓮が声をかけてくる。しかし、紫月は何も答えられなかった。ただ駆け出して取り調べ室のドアを勢いよく開ける。

「おい、取り調べは捜査一課がやると説明しただろう！」

「そうだそうだ！無能な未解決捜査課の人間は出て行け！」

智也と書記を担当していた優我が文句を言う。しかしそれを無視して紫月はハオランの胸ぐらを掴み、無理やり立ち上がらせた。

「おい、お前何やって……」