Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
蓮が訊ねると、優我が舌打ちをしてしまいそうなほど顔を歪めながら「今はパトカーの中で徳富(とくとみ)が事情聴取をしている」と答えた。徳富とは捜査一課の女性刑事である。

「芥川さん、俺たちも徳富のあとに話を聞いてもいいですか?」

「いいぞ」

修二に紫月が事情聴取の許可を取ると、優我と智也は「何でお前たちが聴取するんだ!早く帰れ!」と言わんばかりに睨み付けてきた。



慎吾の担当編集者である樋口皐月(ひぐちさつき)は、高身長で白いブラウスに黒のパンツを着た三十代の女性だった。彼女の顔色は真っ青になっており、黒縁眼鏡の奥にある瞳は落ち着きなく動いている。手が小刻みに震えているのを見て、紫月よりも先に蓮が口を開いた。

「そのブレスレット素敵ですね!」

皐月の左手首には、桜をモチーフにしたブレスレットがつけられている。強張っていた皐月の表情が少し柔らかくなった。

「これ、ガラスでできてるんです。ガラスアクセサリーが大好きでいつもつけていて」

「これガラスなんですか!すごいですね〜」
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