Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
賑やかな祭り会場を歩いて行く。左右には出店が広がり、いい匂いが漂っていた。

「なぁ、たこ焼き食べていいか?」

アノニマスが訊ねる。彼女が見つめる先にはたこ焼き屋があった。その隣にはクレープ屋があり、紫月は大きく頷く。

「ああ。俺もクレープが食べたくなってきた」

「相変わらず甘党だな」

アノニマスはフッと笑い、たこ焼きを買うために列に並ぶ。アノニマスの顔を何度も思い出し、その度に顔を赤くしながら紫月はクレープの列へと並んだ。

たこ焼きとクレープをお互いに買って食べた後、再び歩き出す。人が随分と多くなってきた。

「アノニマス、手を繋がないか」

緊張を覚えながらアノニマスに紫月は声をかける。アノニマスはムッとした表情を向けた。

「子ども扱いをするな」

「違う。この人混みだ。はぐれたらお互い面倒だろう」

紫月は手を差し出す。アノニマスは少し躊躇ったものの、その手を取った。自分の手よりもずっと小さなアノニマスの手に、紫月の胸が高鳴って止まない。
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