Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「手、小さいな」

「馬鹿にするな。背が低いんだからしょうがないだろう」

「いや、馬鹿にはしていないぞ」

「ハハッ。どうだか」

アノニマスは楽しそうに鼻歌を歌いながら出店をあちこち見ている。紫月はそんなアノニマスをジッと見つめていた。彼女はまるで初めて夏祭りに来た子どものように無邪気な目をしている。

「こういうところに来るのは初めてか?」

「……ああ。小説の資料のために話を祭りに関して話を聞くことはあったが来るのは初めてだ。悪くないな」

アノニマスの頰が緩んでいる。いつも無愛想な彼女がこれほど表情が変わるのは珍しい。紫月の顔に自然と笑みが浮かんだ。

「よし。なら、もっと楽しまないとな!」

アノニマスと手を繋いだまま、紫月は歩き出す。目指すのは射的の店だ。

「どこへ行くんだ?」

「射的。どっちが景品を取れるか勝負するぞ」

紫月の提案に、アノニマスは「望むところだ」と不敵な笑みを浮かべた。
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