Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
Interlude Intent to kill
穏やかなBGMが流れるバーでのささやかな祝いが行われていた。男と女はカクテルグラスを軽くぶつけて乾杯をする。二人が殺人を終えた後、祝杯を上げるのは決まってこのバーだ。

「今回もうまくやったの?」

「ああ。あの中国人留学生はきちんと罰を与えたよ」

「いい調子よ。どんどん悪を私たちの手で裁いていきましょう」

女は満足そうにカクテルに口をつける。それを男は見つめていた。頭の中には数日前の出来事が蘇る。可愛い後輩にかけた言葉が、男の中で渦を巻いていた。

(本当は、俺はあんな言葉をかける資格なんてないんだ……)

隣にいる女と共に、何度もこの手を血で染めてきた。この罪は許されることはないだろう。それでも、と男は拳を握り締める。こんな自分を慕ってくれる後輩がいることを改めて気付き、それと同時に自分が嫌になっていった。

「あんた、もしかして逃げようとしてないでしょうね」

男の胸の中の葛藤に気付いたのか、女が男を睨み付ける。まるで氷のように冷たく、獣のようにギラついた目だ。男は首を横に振った。
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