Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜

容疑者H

突然押し掛けた刑事の存在に翡翠は驚いた顔を見せたものの、話を聞かせてくれることになった。しかし部屋の中でしてほしいと言われ、紫月は彼女の部屋の中に入る。

「お邪魔します」

「少し散らかっているんですが、気にしないでください」

翡翠はそう言ったものの、広々とした部屋は全く散らかっていない。家具はお姫様の部屋を連想させるようなピンクか白で統一されており、可愛らしいデザインのものばかりだ。

「お一人で住まわれてるんですか?」

「はい。今年で二十一歳になるんですから、いつまでも親を頼ってばかりではいけないと思って一人暮らしをきてたんです」

リビングの横にあるキッチンに立った翡翠の言葉に紫月は驚いてしまった。まだ十代半ばだろうと思っていた彼女は、自分と同じ二十代だったのだ。思わず驚きを声に出してしまいそうになり、慌ててそれを堪える。

「刑事さん、コーヒーか紅茶どちらにしますか?」

「いえ、お構いなく」

紫月はそう言ったものの、翡翠が「条野さんに何かあったんですよね?私、色々話したいことがあって長くなると思うので」と言われたため、紅茶を選んだ。
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