Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
紫月が紅茶を選択すると翡翠は「甘いものはお好きですか?」と訊ねる。その言葉に紫月の胸の中は一瞬にして熱くなった。この男、大の甘党なのである。

「好きです!!」

興奮気味に紫月が言うと、翡翠は少し引いたように顔を引き攣らせたものの、「よかった。私は甘いものが苦手なので」と言いながら冷蔵庫を開けて箱を取り出す。有名なパティスリーの箱だった。紫月の目が輝く。

「あっ、それ××の……!」

行列のできるスイーツ店ということでテレビでも取り上げられたことのある店だ。紫月は期待に胸を膨らませつつ、部屋の中を見て待つ。

本棚を目にした時、紫月はあることに気付いた。解離性同一症など精神に関する本がほとんどを占めている。紫月が本棚を見ていると紅茶をリビングのテーブルに持って来た翡翠が説明してくれた。

「両親が精神科医で、私も興味を持って色々本を読むようになったんです。自分の小説のネタになることもありますし」

「なるほど。そうでしたか」
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