Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
二人は向かい合って座る。翡翠は何も入れることなく紅茶の入ったティーカップに口をつけ、紫月は紅茶に砂糖とミルクを入れた後、翡翠が用意してくれたフルーツタルトにフォークを刺して口に運ぶ。

「おいしい!」

宝石のように煌めくフルーツはさっぱりとした酸味があり、タルトの生地はサクサクとした食感で飽きることがない。紫月が笑みを浮かべると、翡翠が「本当に甘いものがお好きなんですね」と微笑んだ。

「ええ。幼い頃から甘いものに目がなくて……。顔に似合わないと同期からは言われるんですが」

「いいじゃないですか。私もこういう服を着ているので甘党と思われがちですが、実は辛党でして」

そう言い、彼女はキッチンの調味料などを見せてくれた。そこには何十種類ものスパイスがズラリと並んでおり、辛いものが苦手な紫月は舌がヒリヒリするのを感じた。翡翠は相当な辛党のようで、この多くのスパイスは海外の現地で調達したものもあるそうだ。

「気になったのですが、何故冷蔵庫にフルーツタルトがあったんですか?ご自分で買われたんですか?」

「いいえ。あのフルーツタルトは樋口さんが買ってきてくれたんです。先程、パトカーの中で話してましたよね?」
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