Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
二言三言交わした後、幸成は法医学研究所に帰って行った。紫月と蓮がいるパトカーへと戻る。蓮はどうやら聞き込みをしていたようで、手帳を開けていた。

「条野さんと深く関わりのある人物に心当たりはないか聞いてみました。五年前に条野さんは奥さんと離婚しています。あと、最近あるYouTuberと揉めていたそうです」

「そうか。でかしたぞ夏目!」

早く事件を解決して捜査一課に戻る。その気持ちが燃えていた紫月は、翡翠の恐ろしいほどの無表情のことなど頭から抜け落ちてしまった。



条野慎吾、五十一歳。大阪府大阪市出身。元々は会社員として働いていたのだが、四十歳の時に応募した「死神の告白」が小説大賞を受賞し、小説家デビューを果たす。凶器となったトロフィーはその時に貰ったもののようだ。

「トロフィーで殴打されたのは三回。そのうちの一回がこめかみに当たり、それが致命傷となったみたいだ。傷はそんなに深くはない」

「つまり、犯人は力の弱い女の可能性が高いということか」

「あと、死亡推定時刻は四月二日の午後五時から六時。エアコンで部屋の温度を低くして死亡推定時刻を狂わそうとしていたみたいだけど、うまくいかなかったみたいだ」

「まあ素人がやってうまくいくものではないからな」

解剖結果を幸成から聞いた紫月はそう言い、デスクに広げられた資料を眺める。資料は修二が持って来てくれたものだ。
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